北九州発の終活情報誌
「もしもの広場」
逆さことをご存じですか?
人が亡くなった時の作法事は、日常生活と違う風習で行われる事がたくさんあります。
「逆さごと」と言われています。例えば、お風呂の熱さを調整するときお湯に水を加えて丁度好い加減にしますが、湯灌をするときは盥に水を張り 上からお湯を入れて温度調節をします。これが「逆さ水」です。身体を拭くときも下から拭いていきます。枕もとの屏風を逆さに立てた「逆さ屏風」。着物の襟を左前にしたり旅支度の足袋の紐を立て結びにしたり…先人たちは、なぜこんなことを したのでしょうか?
それはあの世は現実の世界と「あべこべ(はんたい)」になっていると考えていたからです。
何かの映画で観た記憶があったのですが、夜葬儀を執り行っていました。夜おこなっていたのは、昼と夜が逆なので明るいあの世に渡りやすいように、とのことだったようです。
大切な人を亡くすということは、私たちにとっても先人たちに とっても非常事態であり受け入れがたい事です。大切な人の死と向かい合い受け入れていくために人々は現実の生活と反対の事をすることによって、否が応でもその現実と向き合っていったのです。
わたしは先人たちの生活の知恵がそこにあるばかりではなく 優しさや家族の絆を感じます。
「逆さごと」は現在ではあまり行われなくなったものもありますし、ご宗旨によっては必要ないと言われている事もあります。私は「逆さごと」を先人たちみたいに全てやりましょうと言うつもりはありません。
ただ、何事もスピードが要求される社会に あって、病院にお迎えに行った時すぐに「今日、通夜はできますか?」と家族から聞かれるたびに「もっと時間をかけてゆっくりお別れすればいいのに」と思う事もあります。
大切な人との最後の一時を悔いが無いものにするためにも、先人たちが生み出した 知恵から大切な事を学ぶ必要があるのではと思います。